今の皇室典範では、側室不在で非嫡出の継承資格を否認しながら、
なおも皇位の継承資格を「男系男子」に限定している。
それがいかに至難な条件であるか。
歴代天皇の実情を振り返れば分かる。と言うのは、「これまでの男系継承の維持の上で、非嫡出子による継承が
大きな役割を果たしてきた」からだ。
実際に、皇后や中宮(ちゅうぐう)など天皇の正妻に当たる方が、
嫡出の男子を生まなかった例が少なくない。それを具体的に見てみよう。
126代のうち、女性天皇10代は無論、除外される。
又、あくまで「史実」を問題にしなければならないので、初代・神武天皇~16代
・仁徳天皇までは、一応、除外して検討する必要がある。
私は今のところ(学界では神武天皇以下の実在そのものを否定する見方が根強いが)
その実在まで疑うには及ばないと考えている。
だが、伝えの全てを確かな事実と見るのは、少し無理がある。
何しろ、生没年不詳の仲哀天皇1例を除き、15代の平均寿命が107歳になっている。
とても現実にはあり得ない高齢だ。
継承の仕方も、1例(成務天皇→仲哀天皇)のみを除き、他は全て「父子継承」。当時の在り方としては極めて不自然だ。
だから嫡出か否かの区別についても、確かな史実性は保証されないと
考えるのが常識的だろう。
更に、未婚や早く亡くなられたケース(未婚3例+早世2例)も一先ず
除外しておこう(勿論、今後もそうしたケースがあり得ることは想定して
おかねばなるまいが)。更に、詳しい史料が欠けている場合もある。
承久の変で早々と退位させられた仲恭天皇(前近代には九条廃帝などと
呼ばれていた)や、南北朝時代の南朝方の長慶天皇(大正時代にご即位が
確認され歴代に加えられた)と後亀山天皇だ。
よって、この3代も除かざるを得ない。
以上で126代の天皇のうち、検討対象となるのは92代になる。
これに、歴代に加えられていない北朝の(史料を欠く光明天皇1代を除いて)
4代を加えると、96代が最終的な検討対象として残る。
これらのうち、正妻から男子が生まれなかったのは(妻帯後早く亡くなられた
1例を除いて)31代。これらの他に、今の感覚では理解しにくいが、(側室ではなく)正妻に当たる
立場の方々が複数おられたケースで、その3人目の方が男子を生まれた天皇が
3方おられた(円融天皇・後堀河天皇・後醍醐天皇)。
これも一夫一妻を前提とした場合にはあり得ない。
この3代も、もし正妻がお1方だけだったら男子には恵まれなかったと考えなければ
ならないので、上記の代数に加える。そうすると、96分の34、つまり平均して35.4%ほど(3分の1以上)の割合で、
正妻に男子が恵まれなかったことになる。
これは、3代か2代に一度は、正妻に男子が生まれなかった冷厳な事実を示す。
このように実例を点検すれば、現在のように非嫡出の継承資格が否認された場合、
「男系」継承がどれだけ厳しい状況に置かれるか、たやすく理解できるはずだ。【高森明勅公式サイト】
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